比較研究から特徴や使い方を理解しよう
「使用済みのヤシ殻培地を畑にすき込んでいるけれど、これって本当に効果があるの?」このように考えられている方もいるのではないでしょうか。
養液栽培で使用したヤシ殻培地を農地に施用した比較研究(浦山, 2009)をもとに、具体的な効果や方法、土壌の理化学性、物理性の変化について紹介します。
最初に比較した各区の特徴についてご確認ください。C区が使用済みヤシ殻培地と化学肥料を組み合わせた区画です。
徐々に収穫量が伸びて最終的に一番へ
まずは、露地でキュウリを栽培したときの収穫量の比較です(図1)。
移植後20~26 日目
移植後すぐは、堆肥を入れたB区の収穫量が、化学肥料のみのA区や使用済みヤシ殻培地も施用したC区の2倍になりました。
移植後34~40日目
しかし収穫後期では、使用済みヤシ殻培地のC区が、B区の収量と同程度になりました。これは、使用済みヤシ殻培地を入れたC区では、施用後30 日目ごろから各養分がゆっくりと植物に供給されていったからです。
使用済みヤシ殻培地のC区ではじわじわと収量を伸ばし、第三期にはもっとも収量が高くなりました。
出典:『熱帯地域におけるココナツコイアを利用した作物の養液栽培および耕地への還元利用に関する研究』(浦山久, 2009)
肥料効果は30日後から徐々に効く
次に土壌中の化学性と、その変化の比較です(表1)。
カリウム
カリウム濃度は、移植後40日目にB区と使用済みヤシ殻培地のC区では増加しました。
窒素
アンモニア態窒素については、大きな差は見られませんでした。
硝酸態窒素は、40日目にA、B、C区ともに増加し、使用済みヤシ殻培地のC区では、40日目の土壌中の窒素含有量は170 kg /ha程度でした。
計測された土壌中の全無機態窒素の量は200 kg(化学肥料として施用した120 kg含む)で、栽培終了時に土壌に残留している無機態窒素量から計算すると、80 kg /haの窒素量が使用済みヤシ殻培地から供給されたものだとわかりました。
この理由は、はじめは使用済みヤシ殻培地のC/N比が高いため、窒素の吸着が起こりましたが、徐々に土壌微生物によって無機化されていきます。その後、ヤシ殻自身が緩やかに分解したためだと考えられます。
これはまた、キュウリの収穫量の変化 (図1) とも関連しています。はじめは不活性化(固定)されていた窒素が、土壌微生物によってヤシ殻培地の施用後30 日ごろから徐々に培地から分解され、植物へ供給されたため、収穫量が増加したと思われます。
表1: キュウリ栽培40日後の土壌中の残留炭素および養分に及ぼす堆肥および使用済みコイアーの施用効果
物理性の改善に効果的
最後に物理性の比較です。
固相率について、B区と使用済みヤシ殻培地のC区で土壌孔隙が増大しました。
ホウレンソウ、キャベツ、ダイコン、パクチョイで高収量
キュウリの栽培比較実験を行った同じ圃場で、その後3 年にわたり後作の作物(ホウレンソウ→キャベツ→ダイコン→パクチョイ)の生育・収量に関する調査が実施されました。
※後作では、追加で使用済みヤシ殻培地は入れず、NPK のみ(施肥量は茨城県の野菜耕種基準に準拠)を各作物の播種や移植時に施用。
その結果、ホウレンソウ、キャベツ、ダイコン、パクチョイすべてで、使用済みヤシ殻培のC区の収量がもっとも高い数値を示しました。 (図2)
これは、使用済みのヤシ殻培地に吸着した養分がゆっくり分解供給されたことから、後作の作物の生育・収量に効果があったためです。さらに、ヤシ殻の腐植化が徐々に起こったので、土壌物理性の改善や緩衝能力の向上にも効果的に働いたと考えられます。
出典:『熱帯地域におけるココナツコイアを利用した作物の養液栽培および耕地への還元利用に関する研究』(浦山久, 2009)
実用的で環境負荷も少ない
養液栽培で使用済みのヤシ殻培地を土壌に施用すると、肥料の省力化ができます。特徴は。緩やかに無機態窒素を植物へ供給するのでより長期的に作物への窒素供給ができ、長期的な収量の増加にもつながることです。
課題としては、じわじわ効くという特徴から、ヤシ殻に吸着した無機態窒素が供給し始める時期に移植期を合わせるなどのスケジュール管理や効率的な施肥法の検討が必要なことです。また、長期にわたる土壌への影響を肥料の効率的な利用法とあわせて検討する必要もあります。
しかし、この実験から使用済みのヤシ殻培地の土壌への施用は、実用的であり、かつ環境にも負の影響が少ない方法であることがわかりました。
もっと詳しく知りたい方は、以下の論文を参照ください。
『熱帯地域におけるココナツコイアを利用した作物の養液栽培および耕地への還元利用に関する研究』(浦山久, 2009)筑波大学大学院 生命環境科学研究科 生物圏資源科学専攻 博士 (農学) 学位論文
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